今月の次郎 11月
ベストはすみいかだった。
おそらく小ぶりないかで、年の頃は15、6といったところだろうか。
そのしなやかな、いたいけな食感がいじらしい。
歯がいかの肉体に吸い込まれると、緩やかな甘みが広がっていく。
それは豊潤ながらも澄んでいて、体に眠りし純情を、こっそりくすぐるのだった。
ああ。幼い食感と甘みに、胸が焦らされる。
その瞬間、酢飯が顔を出し、米の甘みと酢の酸味を優美に振りまきながら、いかとダンスを踊る。
その舞は、やがて小さく小さくなって、淡い余韻だけを残して消えていく。